はじめに
近年国連では、国際組織犯罪の防止そして人権の確保の両面から人身売買の防止に強い関心を示してきている。最近の注目すべき動きとしては、国連人権委員会が3年の任期で人身売買に関する特別報告者を任命したことがあげられる。特別報告者として、バングラデシュ女性法律家協会の創設者で現会長でもあるシグマ・フダ(Sigma Huda)さんが任命された。彼女の任務は、人身売買、特に女性と子どもの人身売買の被害者の人権問題に焦点があてられており、被害者の人権を保護するために要求される措置についての勧告を含めた年次報告書が出されることになる。
しかし、なんといっても近年の大きな成果は、2000年11月に国連総会において「国際組織犯罪禁止条約を補完する、人身売買、特に女性と子どもの人身売買の防止および禁止ならびに処罰に関する議定書」(人身売買禁止議定書)が採択されたことである。同議定書は2003年12月15日より発効しているが、日本は未批准である。しかし、今、日本も同議定書の批准を見据えて若干の国内法整備を行おうとしている。
はじめて定義された「人身売買」
そこで、まず人身売買禁止議定書とはどのような条約なのかについて簡単に説明したいと思う。人身売買禁止議定書は、@女性と子どもに特に留意しながら人身売買を防止および禁止すること、A人身売買の被害者を、その人権を十分に尊重しながら保護し支援すること、B以上の目的を達成するために締約国間の協力を促進することを目的としている。
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また同議定書は、はじめて「人身売買」を定義したことでも注目されている。それによると、人身売買には目的、手段、行為の3つの要件が含まれる。まず、搾取を目的とすることである。搾取には、少なくとも他人を売春させて搾取すること、もしくはその他の形態の性的搾取、強制的な労働もしくは役務の提供、奴隷もしくはこれに類する行為、隷属または臓器摘出が含まれる。そしてなんらかの強制が手段として用いられていることである。手段としては暴力あるいはその他の形態の強制力による脅迫もしくはこれらの行使、誘拐、詐欺、欺もう(相手がまちがえるように事実をいつわること)、権力の濫用もしくは弱い立場の悪用または他人を支配下に置く者の同意を得る目的で行う金銭もしくは利益の授受があげ� ��れている。最後に行為だが、これらの目的と手段を用いて、人を採用し、運搬し、移送し、蔵匿し(人に知られないように隠すこと)または授受することがあげられている。そして、強制の手段がある場合は、人身売買の被害者が搾取に同意しているか否かをとわず、18歳未満の子どもの場合は、搾取の目的があれば強制の手段がなくても人身売買となる。
男性も人身売買の被害者
「人身売買」と聞くと、被害者として女性や子どもがあげられるが、議定書は人身売買の被害者を女性と子どもに限っているわけではないことにも注意が必要である。ただ、女性や子どもがより被害にあいやすいのが現実である。したがって、議定書は、「特に女性と子どもの人身売買」としているが、男性も人身売買の被害者となる場合もあるという観点からこの条約を見ることが大切である。
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人身売買組織によって日本に連れてこられる女性たちの多くは、売春スナックやストリップ劇場などの性産業に送り込まれていることが報告されている。彼女たちは逃げ出さないようにパスポートを取り上げられることが多い。パスポート等を取り上げることによって逃亡を阻止しているのである。成年男性の場合も、「日本に行けばたくさん稼ぐことができる」という誘いを受けてブローカーの助けをかりて、日本に入国し工場などで働くが、パスポート等を取り上げられた上に毎日長時間働かされ、わずかの賃金しかもらえないというケースはよく報告されている。この場合も、目的は彼を法外な低賃金・長時間労働につかせることで経済的に搾取することであり、パスポート取り上げという強制が手段として使� ��れている。日本にいる男性移住労働者の中にも人身売買禁止議定書の定義に合致する人身売買によって被害を受けている男性は少なくないのではないだろうか。
被害者保護の確保のために
人身売買禁止議定書は人身売買を犯罪とするための必要な立法措置およびその他の措置をとることを締約国に義務づけるとともに、人身売買の被害者を保護し支援することも義務づけている。ただし、被害者の保護および支援義務は、「適当な場合には」あるいは「○○の措置をとることを考慮する」といった比較的緩やかな義務規定となっていることも事実である。
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そこで、被害者保護を充実させるために活用すべきなのが、人権高等弁務官(UNHCHR)によって出された「人権および人身売買に関して奨励される原則および指針」(E/2002/68/Add.1)である。同文書は2002年7月の経済社会理事会の会期において、人身売買の根絶にあたっては人身売買の被害者の人権確保が、すべての努力の中心に位置づけられるべきであるという認識の下に提出されたものである。
奨励される原則のはじめには、議定書が定める目的のためのすべての努力の中心には、人身売買された人々の人権が位置づけられなければならず、人身売買を禁止するための措置は、人身売買された人々をはじめ人権と人間の尊厳に逆影響を与えるものとなってはならないことが強調されている。議定書は、国際組織犯罪禁止条約の補完条約であることからもわかるように、人権、とりわけ人身売買の被害者の人権を確保することを主要な目的としているというよりは、むしろ国際組織犯罪を防止することを主要な目的としてつくられている。したがって、UNHCHRは人身売買を防止しなくすための取組みに人権を統合させることが必要であると考え、国や国際機関がこの原則とガイドラインを利用するように奨励している。
このガイドラインは、アメリカ合衆国をはじめ人身売買の被害者保護のための法整備を行っている国が加害者を処罰するために証人となって協力することを条件に被害者に対して不法入国やパスポート偽造、または資格外あるいは不法就労などで処罰をしない、あるいは在留許可を与えるなどの保護政策をとっていることに対して、すべての被害者が差別なく適切な保護および支援が受けられるようにすべきであると勧告している。
おわりに
人身売買禁止議定書は人権条約というよりは犯罪防止条約としての性格が強いため、先に述べたように被害者保護についてはそれほど強力な規定をおいていない。そのため同ガイドラインは、人身売買禁止議定書の被害者保護規定を補完する重要な文書として位置づけることができる。現在、政府は法整備を進めてはいるが、被害者保護については通達等で対応しようとしているようである。「人身売買の防止」を口実に外国人労働者の受け入れにより高いハードルが設けられるようでは、外国人労働者が置かれる状況はますます厳しいものとなる。人身売買の被害も闇へと潜ってしまうだろう。
人身売買の被害者保護を皮切りに、日本の出入国管理制度のあり方、「研修生」問題などが大きく取り上げれるように世論を喚起していきたいところである。
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